下倉さんは『Buddy Daddies』のストーリー原案を手掛けていますが、初期の段階では、どのようにストーリーやキャラクター設定を作っていったのでしょうか?
最初の大筋は、僕の方で作りましたね。男性ふたりの対照的なキャラクターが、弾みで子育てをしてしまうという枠組みにするなら、こんなストーリーになるよね…みたいなものを、とりあえず書いてみた感じでした。そのあと浅井監督が制作陣に加わり、監督は最初の頃からキャラクターに明確なイメージを持っていたので、そこから設定を具体的に固めていった気がします。全体的なストーリーのラインも似たような感じですね。まず、僕がオーソドックスな流れを形にして、監督や柿原さんやプロデューサーの方々と一緒に意見を出しあいながらまとめていきました。
シリーズ構成をおふたりで担当するにあたり、下倉さんと柿原さんの間ではどのような打ち合わせをされたのですか?
それほど細かい打ち合わせはしなかったですよね?
仕事(殺し屋)エピソードは下倉さん、子育てエピソードは私、という暗黙の了解みたいなものはありましたね。やっぱり子供のネタは実際に子供がいる私のほうが出しやすいですし、ハードな殺し屋ネタは下倉さんのほうがお上手なので、そこは下倉さんに頼って、子育てネタは私の出番だなと勝手に思っていました(笑)。たぶん下倉さんも、そんな感じだったのではないかなと。
そうですね。この企画に加わる前、鳥羽プロデューサーから「自分は子供がいないから、子育てをどうやって扱ったらいいかわからない」みたいな相談をされたことがあるんですよ。そのときはまだ部外者だったから「この企画は子育てがわからない人間が子育てに向き合うところが大事なので、鳥羽さんの視点も必要ですよ」とか軽い気持ちで言ったんですけど、自分が関わるとなると、とんでもないことを言っちゃったなと(笑)。そのくらい子育てについては、実感としてわからない部分がありました。でも、お子さんがいる柿原さんや辻プロデューサーには子育てへの思い入れや実体験のエピソードがあるので、そこは僕も頼って役割分担していった感じです。
それで、子育てシーンにリアリティが出せたというわけですね。
子育てに直面したときに感じる大変さみたいなものを、普段は子供と関わることがないカッコいい男性たちが四苦八苦しているのがいいんじゃないかなと。だから、そうしたシーンはあえてカッコ悪く、綺麗には描かないようにするという意識がありましたね。それが“子育てあるある”ネタとして、面白いものになればいいなと思っていました。
そうした一連の作業のなかで、おふたりが個人的にこだわった点などはありますか?
僕は基本的に「罪を背負っている殺し屋が幸せになれるのか?」という昔からあるオーソドックスなテーマみたいなものを、全体的な流れとして意識しましたね。それとは別に個人的に楽しかったのは、4歳児の思考回路が全然わからないことです。キャラクターを動かすときって「このキャラはこう思っているから、こういう行動をとる」とか因果関係を結び付けられるのが普通で、そこをどうコントロールするかがシナリオのポイントになるんですけど、4歳児って何が出てくるのか本当にわからない。そこが逆に、すごく面白かったんです。打ち合わせで子供がいる方たちから出てくる4歳児エピソードも楽しくて、みんな親バカ感があふれていましたね(笑)。
私は下倉さんが原案の骨組を作ってくださったおかげで、すごく作業がしやすくて、じゃあ自分がやれることはなんだろうと思っていたときに、本読みでスタッフの方たちが「子育ての大変さがわかりました」と仰ってくださったんですよ。ミリが家にやってきたばかりの序盤で、追っかけ回すのが大変なシーンがありますけど、あれは自分の経験上のストレスを書いたようなところもあり…(笑)。トイレひとつにも全部手間がかかるとか。それを「こんな風に大変なんですね」って、ちょっと面白がってくれたことが、私は逆に新鮮で嬉しかったんです。だから、子育てシーンについては「こうやったほうがかわいいよね」とは、あえて逆に行きたいなと思いました。リアルにすることを大事にしながら、そこを自分としても楽しみましたね。
主役の殺し屋コンビについて、おふたりはそれぞれのどんなところに魅力や面白さを感じますか?
(諏訪)零はある種、定型のクールキャラクターに見えるかもしれませんが、彼を掘り下げていくと、浅井監督の思い入れみたいなのものが詰まっているんですよね。シナリオライターとしての「こうしたほうが自然かな」と思ったことに対し、監督はご自身の思う家族観を反映されてきて、そこがすごく印象に残っています。そういう意味では、クールに見えて意外と生っぽいところを肉付けされている面白いキャラクターだなと思いますね。
私も主人公ふたりの関係性を掴むまでに時間がかかったんですけど、監督が結構しっかりとイメージを固めていたので、それによって仕上げていくことができたところはありますね。零はいわゆるベーシックに何を考えているかわからないキャラクターですけど、同じように見える表情やセリフにも意外とバリエーションがあるんですよ。同じ「青」でも「青紫」だったり、そのくらいのグラデーションがあるキャラクターなので、観る人それぞれによって、受けとめる印象が少しずつ変わっていくのが魅力かなと思いますね。
では、(来栖)一騎についてはいかがですか?
一騎はセリフの語尾を監督に結構直されたんですけど、思っていたよりも「べらんめぇ調」だったんですよね。監督のなかでは、そういうイメージだったのかと(笑)。
監督がシナリオを直すときに、ひらがなの「ん」をカタカナの「ン」にしてくるんですよ(笑)。
それだけ明確なイメージで、一騎というキャラクターが動き出しちゃったんでしょうね。私もそんな一騎像を探りながら追いかけていった感じですけど、当初のイメージよりは明るく楽しいキャラクターになったという印象でした。あと、飲みに行ったときのダメな一騎が結構好きなんですけど、女の子たちに誘われて散財しちゃったり、面白い男だなと思った記憶がありますね。
そういうシーンをアフレコで役者さんが実際にやると、さらに面白くなるんですよね。豊永(利行)さんにも大変いい感じで演じていただいているので、芝居映えするキャラクターになっているなと思います。Blu-ray&DVDの特典ドラマCDを収録したとき、合間に豊永さんと内山(昂輝)さんがブース内で台本の打ち合わせをしている声がマイクからちょっと聞こえてきたんですけど、思わず監督と顔を見合わせて「今の完全に一騎と零だったね」みたいに話したことがあって…。そんな風に、この作品は役者さんに引っ張られてキャラクターの魅力が増しているところがありますけど、一騎は特にその部分が強いなと思いました。
その他に、お気に入りのキャラクターはいますか?
自分は保育園の(羽生)杏奈先生ですね。子育てものならではの安心感というか“ママみ”があるのもいいんですけれど、合間でちょくちょくコメディリリーフになってくれるのがホッとして、とてもいいなと思っています。包容力のあるキャラクターですが、自分がこれまでに書いた脚本にはあまり出てこないタイプで、とても安心感がありますね。
私は久ちゃん(九棋久太郎)が好きですね。久ちゃんもさっきお話した零のグラデーションのように、観た人それぞれに考える余地があるキャラクターじゃないかなと思います。「私がイメージする久ちゃん」という妄想が膨らみやすいので、スタッフとの打ち合わせでも、みんなで勝手な妄想をしながら盛り上がって楽しかったですね。
最初の頃は久ちゃんのキャラクター像がなかなか決まらなくて、曖昧な「マスター」っていう存在だったんですよね。場合によっては『シティーハンター』の海坊主みたいな、スキンヘッドでムキムキの男になる可能性もありましたから(笑)。
実際はミステリアスでカッコいいキャラクターになりましたね。
ミリと絡ませ甲斐のあるキャラクターになりました。
下倉 そこは(キャラクター原案の)エナミカツミさんに「ありがとうございます」という感じですね(笑)。
放送済みのエピソードについて、制作時に印象に残っていることはありますか?
第1話のアイディア出しをしたときに、打ち合わせで「ラストはクリスマスにしちゃいますか」みたいな話になったのが印象的でした。やっぱり第1話ってスペシャルなことが起こるエピソードなので、そのスペシャル感をどうやって正当化しようかなと思ったときに、時期をクリスマスにするとそれだけで脚本にマジックをかけられますから。特別なことが起こるという説得力も付けられるので、すごくよかったなと思いました。
最初の第1 話を作るときっていろいろと大変ですけど、「クリスマスがいいよね」とか「じゃあケーキがあって…」とか、みんなでアイディアを出しながら盛り上がっていきましたよね。そのなかで(海坂)ミリがどう動くかを考えていくうちに「こう動かしたい」じゃなく「子供だから、こう動いちゃう」という状況が組み合わさり、化学反応が起きたように流れが見えてきたのが面白かったです。クリスマスというシチュエーションは、ちょっとした遊びを入れるのにもちょうどよく、そこから話を膨らませていくのが楽しかったなと思います。
では、おふたりが思う本作『Buddy Daddies』のイチオシポイントをお聞かせください。
子供がいない独り身の男の人って、日常がだらだらと続いていくような感覚がどこかにあって、自分的にはそういう部分も書きたいなと思ったんですよね。ルームシェアした大人の男である零と一騎も、たぶん先のこととかまったく考えていない。今の殺し屋としての日常が、永遠に続いていくように感じていたと思うんです。そんなふたりがミリという子供と向き合って、自分の将来について考えるようになっていく。そういう流れがとても面白いなと、細かな描写にも気をつかって書いたつもりです。自分たちの未来の可能性のひとつに、初めて真面目に向き合う。これは、そういう物語じゃないかなと。なので、その辺りにも注目してもらえるといいのかなと思っています。
改めて作品全体を振り返ってみて思うのは、一騎、零、ミリのドラマを楽しく観られたらいいな…ということですね。結構骨太なストーリーの流れがあって、それぞれに辛いものを背負っていたりもするんですけれど、やっぱり一騎と零の関係性や、ミリが加わることによるドタバタ感に面白さがあると思うので。キャラクターそれぞれのカッコよさも含めて、気楽に観て楽しんでもらえることが一番のポイントかなと思います。
最後に、本作に期待する方々に向けてのメッセージをお願いします。
いよいよこれから本格的に子育てエピソードが出てきます。子育ての大変さって、なんとなく知識としてはあっても、子供を育てた経験がないとその大変さはわからないだろうし、実際に4歳児が自分と同じ空間にいる状況をリアルに想像したこともあまりないと思います。それがアニメという形で目の前に突きつけられるわけですが、こうしたフィクションを通して自分の知らない世界に触れていただくのも、いい経験になるんじゃないかなと。少なくとも自分にとってはすごくいい経験になったので、みなさんも『Buddy Daddies』を通して、そういう経験をしてもらえると大変嬉しいなと思います。
私はあえて、下倉さんと真逆のことも言っておきますね。子育てものではありますが、後半は意外とハードボイルドな展開が待っています。打ち合わせでも、先週は子育ての話をしていたかと思ったら、今週は人の生き様について話していたりと、緊張感に温度差がありました。でも、シリアスな部分をラフに扱いすぎるのも違いますし、殺し屋という仕事を描くうえで、どう落としどころをつけるのか。そこはしっかりと取り組んで、話し合ってきました。楽しい子育てものではありますけれど、後半では当然、そうはいかないところも出てきます。そこも含めて、後半までお付き合いしていただけたら嬉しいなと思います。