『Buddy Daddies』の終盤は、来栖一騎、諏訪 零、海坂ミリの生活に不穏な空気が漂う展開となりましたが、どのようなことを感じましたか?
一騎と零とミリは本当の家族みたいになったけれど、お母さんがもう一度出てきて、クライマックスに向けてどういう風に動いていくのか、オリジナル作品だからこそ本当に先がわからないまま進んでいきましたね。誰も死なないでほしいという気持ちでいましたが、結果的にお母さんが亡くなってしまい、一騎と零がミリを引き取ることになったのは、ちょっと意外でビックリしました。零が死んじゃうのかな、とかいろいろ想像していたので……。
え、そうだったの!?(笑)
収録現場でも、誰か死ぬのかな…っていう話はしていたかも。
私の父もイチ視聴者として、零がどんどん変わっていく姿を観て「死なないでほしい」って言っていたんです(笑)。
言われてみれば、運動会で「頑張れー!」って叫んでいたのも死亡フラグっぽいか。
結局、本当の両親をどちらも失うという境遇に見舞われて、一番切ないポジションにいるのはミリちゃんなんだよね。ただ、ミリちゃんは年齢的に状況がよくわからず、逆にわかったうえでずっと無垢でいなきゃいけない木野さんはしんどいだろうなと思いながら、現場で収録していました。
物語やキャラクターの背景が重い作品なので、ミリも終盤では辛い思いをして泣くんだろうなと考えていたんですけど、最後の最後までそういうシーンはなかったですね。駄々をこねたりする以外では泣くシーンが出てこなくて、最後まで笑顔が印象的な女の子でした。でも、ミリが何も知らずにいられたのは、一騎パパと零パパがうまくケアしてくれたからだろうと感じていたので、私も余計なことは頭に入れてないように演じていましたね。
最後まで「芸人」と「石油王」のパパのままだったのかも(笑)。
ミリに対する一騎と零の気持ちも、序盤と比べると大きく変わりましたね。
全体を通して殺し屋の仕事が子育てをするうえで枷になるという構成でしたけど、最終的には組織に属していたが故に、零の父親とかしがらみが立ちはだかり、ふたりがミリちゃんに対してどういう決断をするのかっていう流れでしたからね。やっぱり小木埜(了)とは一戦交えるだろうなと。第10話で自分たちは変われないからと一旦踏ん切りをつけて、ミリちゃんをお母さんの元に返してあげたけど、第11話ではふたりともめちゃくちゃ引きずっていて、結局切り替えられなかったんですよね。それだけ一騎と零のなかにいるミリちゃんという存在が、この第11話に至るまでの間で欠かせないものになっていったんじゃないかなと思いました。
零は第10話の観覧車のシーンで未練があると言い出して、それまでにない悲しげな表情もしていて、あそこは彼の心情的な変化が見えましたね。第11話でミリの無事を確認した零が、ミリを引き取りたいって言い出すのも印象的でした。一騎は身を引いた方がいいと言っているのに、零の方からああいうことを言い出すのが、結構大胆な変化だったなと。それまでになかった長ゼリフで心情を語って、一騎の気持ちを変えようとしていたので、まさにクライマックスだなと感じました。自分の表現としても、どんな風にやれば一騎の気持ちを動かせるかなと考えましたね。
第11話までは、あんなにたくさん喋ることってなかったからね。
第12話でも父親に向けて長々と話すシーンがあって、台本を見たとき「多いな…」って。
俺は第10話までずっとそうだったから(笑)。
すみません(笑)。とにかく零は後半でセリフが一気に増えて、前半にはなかった姿を見せたのが印象的でした。
親に対して、あそこまで言えるようになったところも変わったよね。
そこを経ての最終話では、3人の未来が描かれるという展開がありました。
あれはビックリしました。高校生ということは10年くらい経っているだろうし、あのラストは台本を見るまで全く知らなくて。僕は零のキャラクターを、自分の声のなかでかなり大人っぽい成分を使って作ったので、未来へ飛ぶなら先に教えといてよ、と(笑)。殺し屋として生きてきたダークなキャラクターとして、自分なりの大人っぽさをガンガン投入していたので、これ以上は年齢を上げられないなと思いました。
現場で横にいる俺に「いや、これ以上は低くできないから」って(笑)。
実際には、大きな変化は求められなかったですけどね。分かりやすく老けたという感じではなく、精神的にちょっと成熟した感じがあればいいということだったので、そこはありがたかったです。一騎は39歳だそうですよ。
そう、ヒゲが生えていたからね。
零も36歳ってビックリしたな。
一騎も老けたというよりは、単純に時間が経ったことだけ意識してくれればいいという感じでしたね。ただ冷静に考えると、39歳の一騎って、今の自分とほぼ同い年なんですよ。今年39歳になるので。なので、普通に年相応の落ち着きを表現できればいいかなと思っていました。木野さんはもっとビックリしたんじゃない?
そうですね。第12話の台本もらったら裏表紙に大人っぽいミリが描かれていたのでドキッとして、映像をチェックしたら成長していたのでビックリしました。私は普段、ちっちゃい子を演じることが多いので、大丈夫かなと思いながら現場に行きましたね。テストのときは年齢を重ねたことを考えて、結構しっとりめに演じてみたんですけど、元気な部分とか“ミリらしさ”は残していいということだったので、本番ではそちらに修正して演じさせていただきました。ミリの気持ちが完全に落ち着いていたのは、きっと一騎と零が試行錯誤しながら育ててくれたおかげで、だからこそみんなで明るいラストを迎えられたのかなと思いますね。本当の家族になれたんだなと感じました。
浅井監督に最後をどうするのか、少し聞いたことがあったんです。このお話だったら悲惨なエンディングもありえますよね…みたいな。だから僕も、全員死ぬのかなとドキドキしていたんですよ。監督もかなり悩まれたようですけど、結果的にいろいろなものを背負ったうえで、前を向いて歩き出す家族になれたので、非常にハートフルな終わり方だったんじゃないかなと思いますね。
女子高生になったミリに恋人ができたらどうなるんでしょう……?
一騎と零を説得するのが大変だと思いますよ。
そうですね。一騎の妄想シーンで「殺す」とか言っていましたし。
そうだ、妄想未来もあったよね。
ギャルミリのシーンがありましたよね。あと、タイガくんとの未来予想図とか。
未来のタイガくん、どうなっているんだろう。まだ交流関係が続いているのかな?
そうなっちゃったら、タイガくんが危ないかも(笑)。
では全12話を通して、どういったシーンやエピソードが印象に残っていますか?
ミリはよく歌っていましたね。その回の始まりとか、終わりでも。
歌いましたね。台本をもらってから練習するんですけど、お母さんが歌っていた歌は事前に仮歌をいただきました。お母さんが歌手だったからミリも歌が大好きっていう設定なので、結構ドキドキしていましたね。テレビの子供番組の歌は、その場でヘッドホンをつけて音楽を聴きながら「ああああ〜♪」みたいな感じで。
ミリの場合、ミュージカルとは違うけど、いろんな感情の揺れ動きも含んだ歌で、ただ綺麗に歌うわけじゃないから表現が多彩だよね。あとは、一騎が料理上手っていうこともあって、美味しそうなものをたくさん食べていたのも印象的でした。
あなた方からは不評でしたけどね(笑)。
「ミリ、これ嫌い」っていうシーンが結構ありましたよね。
零がミリと同じ味覚で、手の込んだものはウケなくて、ミリはレトルトがお母さんの思い出の味だから。
零がお弁当作りを手伝ったら、おにぎりのなかにグミ入れたりするし。
でも、子供ウケはよかったり。そういう食べ物ネタが面白かったですね。
あとは基本的に、もうミリちゃんがずっとかわいい。
ミリちゃんはさ、かわいい顔とか愛嬌のある顔だけじゃなく、悪ミリっぽい顔も結構あったよね。
ありましたね。本当に表情が豊かで、後半になるにつれて「こんな顔も見せてくれるんだ?」って思いましたし、声の表現も制限されず「自由にやっていいよ」っていう感じでした。
どうしてそんなに4歳のお芝居ができるの?
(笑)。
リアル4歳感が凄いよね。
ホントですか。ありがとうございます!
すごくない? いつからそうなの?
いつからですかね。小さい子って性格によって静かな子もいれば、ミリみたいに「つまんない!」って暴れる子もいますけど、オーディションのときからとにかく無邪気に、そのままの感情を表すというのをやってみようと。結構うるさく感じる限界まで「ギャー!」って泣いたりして。その辺りでやりすぎたときは、もうちょっと抑えるようにというディレクションで調整していただいた感じでした。
ミリちゃんが嬉しくなったりテンション上がったりした時に出る、 すっげえ高周波な甲高い「キャー!」ってやつ、あれが好きです。子供って、本当にああいうリアクションするからね。
ありがとうございます(笑)。
個人的にお気に入りの話数を挙げていただけますか?
第9話の運動会のシーンは、観ていて泣きそうになっちゃいましたね。実際、一騎は号泣していましたけど、すごくほっこりして大好きなお話です。
運動会は盛り上がりましたね。
ほっこりするけど、泣きそうになる。
ミリを応援した零が反省しているのもかわいかったですね。
たしかに、あんなに零が叫んだら、そりゃミリも動揺するわなと。僕は第10話ですね。話の分岐点っていう感じがするし、遊園地に行きたくなったし(笑)。観覧車っていうスポットが、なんかいいんですよ。いろいろなアトラクションがあるなかで、観覧車って閉鎖状態で音も遮断されていて個室感があるし、すごい特殊な空間だなと思って。楽しい1日を過ごしたあとに、深い会話も自然と出てきそうな雰囲気があって、それが話の展開的にもピッタリ合っていたなと。終盤ならではの切なさも感じられて、印象に残っています。
僕は一騎と零、それぞれのピックアップ回でもある第7話と第8話かな。第7話で一騎は亡くなった奥さんの妹・(泉)かりんちゃんと話すんですけど、あそこはすごくドラマっぽさを意識して演じてみたんです。役者として、アプローチの仕方を挑戦させていただいたので、その意味でも印象に残っていますね。あと第8話は、零が組織のボスとやり取りするところで、彼が背負っているしがらみとか、今の零を形成しているものが見えてきて、そこを知ることができたという意味で印象的だったなと思います。
改めて『Buddy Daddies』は、どういったところが魅力だと思われますか?
一騎も零もミリもキャラクターの背景としては、それぞれに重いものを抱えているんですよね。ミリはお母さんと離れ離れになってしまうし、零はお父さんから殺し屋としての生き方しか教わってこなかったし、一騎も悲しい過去に縛られている。そこだけを見ると重い物語ですけど、三人が一緒にいると笑えて、コミカルなシーンとかポップに描かれているシーンもたくさんある。そのバランスがすごく絶妙で、もっと観たくなるというか。あったかい気持ちになるシーンもあれば涙するシーンもあるので、その幅広さでいろいろな人たちに届きやすくなっているのが素敵なところだなと思います。
誰が観るかによって、感情移入先が変わる作品だと思います。それぞれの人たちの人生とか生き方とか境遇によって、楽しみ方や評価がまったく異なる作品だなと。そこが非常におもしろい作品だと僕は感じていました。比較的若い方なら、もしかしたらミリちゃんに感情移入するかもしれないし、一騎と零に自分の親御さんを重ねてみることもできるかもしれない。それによって、いろいろな感想が飛び交うようになれば、作品の魅力のひとつになるんじゃないかなと思いますね。
コミカルになったりシリアスになったり、次から次へと作品の雰囲気が移り変わっていくので、毎回飽きずに突き進めるおもしろさがあると思います。最後は未来に飛んで終わっていたし、そこは僕らにとっても予想外の展開でした。全体的に、多彩な展開とか先の読めなさなどが独特だったかなと。オリジナルストーリーならではの驚きがありました。
最後に『Buddy Daddies』をお楽しみいただいたファンのみなさまへメッセージをお願いします。
1クール全12話という物語のなかで、人生の深さを覗き見したような感覚を収録しながら感じていましたが、そういう作品に関わることができて本当に幸せに思います。豊永さんも仰っていたように、人たちによっていろいろな目線で楽しめる作品だと思いますが、私はミリを演じていたこともあり、両親のことを思い出す場面がとても多かったです。幼い頃に食べたコーンフレークの美味しさや、運動会で応援してもらったことなど、いろいろなことを思い返したので、視聴してくださったみなさんの心なかにも何かしら温かい記憶が甦っていたら嬉しいなと思います。最後まで観てくださって、ありがとうございました。
『Buddy Daddies』はオリジナル作品なので、ある意味では余白のある作品だと思います。一騎や零の過去とか、組織のこととか、久ちゃん(九棋久太郎)の私生活とか、まだまだわからない部分がある。あと、最終回でいきなりジャンプした年月の間に何があったのか。ミリの成長過程で、どんな話し合いがあったんだろうとか、 なぜダイナーにたどり着いたのかとか。そういう余白を想像するおもしろさもあるんじゃないかなと思います。アニメは終わりましたが、これからもそうした余白を楽しんでいただければと思います。全話ご覧いただき、ありがとうございました。
全12話をご覧いただいたみなさま、本当にありがとうございました。『Buddy Daddies』では、役者・豊永利行としてもいろいろと挑戦する機会をいただけて、本当に嬉しく思っております。僕もミリちゃんくらいの年頃の娘を育てている1児の父なので、そうした自分の境遇を照らし合わせながら演じられたことが、ひとりの役者としても、1児の父としても勉強になった1クールでした。非常に美しい終わり方をしているので、続編というよりは、たまにスピンオフの単話エピソードを出すのが可能な作品じゃないかなと感じたりもしております。僕も一騎と零、そして、ミリちゃんにまた会える日を楽しみにしつつ、父としてリアルにパパを頑張っていこうと思います。ありがとうございました。